群馬・栃木。日本の近代化を支えた産業遺構を巡る(2)

約70年の歳月をかけて掘り進められた巨大な地下空間 群馬県前橋市を出たあとは、桐生市を経由して、栃木県へ。ドライブ前半では明治時代の産業関連の建築や遺構を中心にまわったが、後半では明治・大正期の近代建築のほか、約1,300年前の奈良時代に創建された説のある日本最古の学校「史跡足利学校」や、江戸時代に商都として繁栄した栃木市の「蔵の街」、太古の昔から建材として利用されてきた宇都宮市の大谷石採石場跡にある「大谷資料館」など、時代を横断した建築にまつわる名所を見てまわった。

ドライブルート

軽井沢町−(国道18号)−碓氷峠−(国道18号など)―松井田妙義IC−(上信越自動車道)−富岡IC−富岡市−(県道10・26・6号線)−高崎市−(県道6号線、国道17号線)−前橋市−前橋IC−(関越自動車道、北関東自動車道)−太田藪塚IC−(県道315・68号線、国道122号線、県道3号線など)−桐生市−(県道227・67号線)−足利市−(国道293号線)−足利IC−(北関東自動車道、東北自動車道)−栃木IC−(県道32・3・11号線)−栃木市−栃木IC−(東北自動車道)−宇都宮IC−(国道119号線など)−宇都宮市大谷−(県道70号線、国道119号線)−宇都宮市中心部

全行程 約218km、今回 約134km

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桐生明治館

宿泊地の前橋市をあとにして、最初に向かったのは桐生市相生町にある「桐生明治館」。前橋市中心部と桐生市相生町は、国道50号線一本で結ばれるシンプルな道のりだが、平日の朝は通勤の車でかなり混雑するので、時間帯や曜日によっては北関東自動車道に乗り、太田藪塚ICで降りるルートを通る方がベターだ。
国道122号線を相生町2丁目交差点で右折すると、すぐ左手に和風の小屋組と洋風の外観装飾が特徴的な白い洋館が目に入る。明治11年(1878)に建てられた桐生明治館は、「擬洋風建築」と呼ばれる建築様式で、近世以来の技術を身につけた大工の棟梁が、洋風・和風の要素を混在させて建てた、明治の初めごろに多く見られた建築だそうだ。前橋市の衛生所兼医学校として創建されて、昭和3年(1928)に相生村役場として現在地に移築された。
明治時代の職人が洋風建築を見よう見まねで建てたものとはいえ、各部屋から出入りできる立派なベランダの回廊があり、テーブルに腰掛けていると当時のモダンを目指した職人たちの心意気を感じることができる。館内には喫茶室があり、蓄音機が奏でる懐かしい音色に耳を傾けながら、ケーキやコーヒーが楽しめる。
/入館料 150円

  • 部屋割りは1階、2階とも左右対称に配されている

    部屋割りは1階、2階とも左右対称に配されている

  • 1階展示室に収蔵される品は明治に宮内庁で使われていたスタイルの物

    1階展示室に収蔵される品は明治に宮内庁で
    使われていたスタイルの物

  • ベランダの張り出し部に面した建物中央の貴賓室

    ベランダの張り出し部に面した建物中央の貴賓室

  • 各部屋は独立し、ポーチ・ベランダから出入りするようになっている

    各部屋は独立し、ポーチ・ベランダから出入りするようになっている

  • 正門、門柱、門扉は創建当時の写真を元に復元したものだ

    正門、門柱、門扉は創建当時の写真を元に復元したものだ

金谷レース工業株式会社鋸屋根工場(ベーカリーカフェ レンガ)

建設当初は8連だったが今は4連となっている鋸屋根

建設当初は8連だったが今は4連となっている鋸屋根

桐生明治館をあとにし、渡良瀬川を越えて安蘇の山々を正面に見ながら東へ進むと、15分ほどでレンガ造りの建物に到着。京都の西陣とならぶ高級織物の産地として知られる桐生には、明治期に建てられた鋸屋根の織物工場の建物が今でも数多く残されている。なかでも大正8年(1919)に建てられた「金谷レース工業株式会社鋸屋根工場」は、外壁レンガは国産の日本煉瓦社製で、レンガ造りの鋸屋根工場としては市内で唯一現存するものだ。外壁のレンガはイギリス積の工法を採用している。また、工場左手の木造二階建ての事務所棟にはスクラッチタイルが用いられ、水平線を強調した特徴的な外観はフランク・ロイド・ライト式建築の影響が見られる。

  • 左手の洋風事務所棟は国登録有形文化財に指定されている

    左手の洋風事務所棟は国登録有形文化財に指定されている

場内は焼き立てパンが味わえるベーカリーカフェ

場内は焼き立てパンが味わえるベーカリーカフェ

工場建物内は現在「ベーカリーカフェ レンガ」として営業し、場内には焼き立てパンの甘い香りが満ちている。約80種類をそろえるパンには、市内の牧場で作られる低温殺菌牛乳「田中牛乳」を使用し、甘くコクのある味わいのパンを作りだしている。朝8時から営業しており、これからのドライブに備えて、朝食スポットとして利用するのも良いかもしれない。

  • 鋸屋根の採光窓から外光がふりそそぐ

    鋸屋根の採光窓から外光がふりそそぐ

  • 鋸屋根を模したフレンチトーストはこの店の名物。184円

    鋸屋根を模したフレンチトーストは
    この店の名物。184円

史跡足利学校

車はJR両毛線沿いを行く県道227号線を走り、群馬県に別れを告げて栃木県の足利市へ。途中、両毛線を越えて渡良瀬川沿いの道と合流し、ほんのわずかな間だが、河川敷の開けた景色のなかドライブを楽しむことができる。
国道293号線との合流点で左折し、昭和通りをしばらく行くと、土塁の向こうに顔を覗かせる巨大な茅葺屋根が目に飛び込んでくる。少し手前の観光施設「太平記館」に車を停め、徒歩で「史跡足利学校」へと向かう。
日本最古の学校といわれる足利学校の創建については、奈良時代の国学の遺制説、平安時代の小野篁(おののたかむら)創建説、鎌倉時代の足利義兼説など諸説あるが、どれも定かではない。足利学校が歴史上の文献に現れるのは、室町時代中期に上杉憲実が現在国宝に指定される書籍を寄進し、鎌倉円覚寺から僧・快元(かいげん)を初代の庠主(しょうしゅ=校長)として招いて、学校を再興したころだ。儒学をはじめ易学・兵学・医学などの教育が行われ、16世紀初頭には三千人もの生徒を擁し、フランシスコ=ザビエルによって「日本国中最も大にして、最も有名な坂東の大学」と世界に紹介された。

  • 講義が行われた方丈。右手には台所の庫裡、奥には書院がある

    講義が行われた方丈。右手には台所の庫裡、奥には書院がある

入徳門と学校門をくぐり校内へ入ると、正面には徳川4代将軍・家綱の時世に造営された孔子廟があり、右手には学生の講義や学習、座禅の場として使用された茅葺屋根の方丈がある。高さ13.8mある寄棟造りの建物は、禅宗寺院の方丈形式の造りで、建物内は学校というよりも寺院といった感じだ。広間からは書院式庭園の築山泉水庭園が望め、日本全国から集まった学徒たちが、かつて眺めた景色のなかに身を置くことができる。
/入場料 420円

  • 方丈の建物内。平成2年(1990)に江戸時代中期の姿を再現した

    方丈の建物内。平成2年(1990)に江戸時代中期の姿を再現した

  • 関東菅領に任命されたのを契機に学校再興に尽力した上杉憲実

    関東菅領に任命されたのを契機に
    学校再興に尽力した上杉憲実

  • 旧遺蹟図書館の前に植えられた色鮮やかな野村楓

    旧遺蹟図書館の前に植えられた
    色鮮やかな野村楓

  • 方丈から見た築山泉水式の南庭園

    方丈から見た築山泉水式の南庭園

  • 中国明時代の聖廟を模したと伝えられる孔子廟

    中国明時代の聖廟を模したと伝えられる孔子廟

  • 入場料を払うとパンフレットと一緒に入学証がもらえる

    入場料を払うとパンフレットと一緒に
    入学証がもらえる

  • 寛文8年(1668)に創建された足利学校のシンボル・学校門

    寛文8年(1668)に創建された足利学校のシンボル・学校門

  • 周辺には佐野ラーメンを思わせる手打ちラーメン店が多い

    周辺には佐野ラーメンを思わせる
    手打ちラーメン店が多い

蔵の街

足利ICで北関東自動車道に乗り、栃木ICへ。県道32号線を走って栃木市街地へと向かい、新栃木駅入口交差点を右折。「例幣使(れいへいし)街道」と呼ばれる県道3号線を行くと、道の両側に重厚な土蔵が軒を連ねる「蔵の街」へと入って行く。
「蔵の街」という呼び名は、例幣使街道を中心に市街地の各所に江戸時代の土蔵をはじめ、明治・大正期の洋館などが建ち並ぶことに由来する。なお、「例幣使」とはあまり耳慣れない言葉だが、江戸時代に毎年京都から徳川家康を祀る日光東照宮へ向かった朝廷の勅使を例幣使と呼んだそうだ。その一行が通った街道が今も「日光例幣使街道」として残っており、例幣使をはじめ東照宮へ参拝する西国の諸大名がここを通り、栃木市は街道の宿場町として大いに栄えた。

  • 足利学校からインターチェンジまではおおよそ5km

    足利学校からインターチェンジまではおおよそ5km

  • 土蔵が道の両側に見えたら、とちぎ蔵の街だ

    土蔵が道の両側に見えたら、とちぎ蔵の街だ

とちぎ蔵の街を象徴する巴波川の眺め

とちぎ蔵の街を象徴する巴波川の眺め

「蔵の街」のなかでも、巴波川(うずまがわ)のほとりに建つ「横山郷土館」はぜひ見ておきたい建物だ。水戸藩士の子息であった横山定助は武家を嫌って商人を志し、栃木の特産であった麻で財をなし、それを元手に金融業にも進出。横山家が隆盛を極めた当時を偲ばせる横山郷土館は、両袖切妻造という商家としては極めて珍しい建築様式となっていて、建物にむかって右半分は麻問屋、左半分は銀行業の名残をとどめている。
市街地にはほかにも、約200年前の土蔵を3棟改修し、美術館として利用される「とちぎ蔵の街美術館」や、塔屋付洋風建築の「栃木市役所別館」、巴波川沿いに120mの黒塀をめぐらせた「塚田歴史伝説館」など、建築好きには堪らないスポットが目白押しだ。
市内を流れる巴波川は、江戸へと通じる交易路として利用され、この街を北関東の商都と呼ばれるほどの繁栄をもたらした。現在、巴波川では小さな船「蔵の街遊覧船」が運行し、船頭の案内のもと20分ほど流れに乗って水面から蔵の街の景色を楽しむこともできる。

  • 雑貨店や和菓子店など土蔵では様々な店が営業している

    雑貨店や和菓子店など土蔵では様々な店が営業している

  • とち介のお菓子は、とちぎ蔵の街観光館などで手に入る

    とち介のお菓子は、とちぎ蔵の街
    観光館などで手に入る

  • 右半分で麻問屋、左半分で銀行を営んでいた横山郷土館

    右半分で麻問屋、左半分で銀行を営んでいた横山郷土館

  • 横山郷土館では当時の銀行の様子を再現

    横山郷土館では当時の銀行の様子を再現

  • 広い中庭では丹精した日本庭園を見ることができる

    広い中庭では丹精した日本庭園を見ることができる

  • 日本庭園の一角にある来客用の洋館風離れ

    日本庭園の一角にある来客用の洋館風離れ

大谷資料館へと向かう沿道に次第に大谷石の蔵が増えて行く

大谷資料館へと向かう沿道に次第に大谷石の蔵が増えて行く

大谷資料館

再び栃木ICへ戻り、東北自動車道に乗ってドライブの最終目的地、宇都宮市を目指す。宇都宮ICで高速道路を降り、山間の道路を進んでいくと、沿道には大谷石で造られた蔵が次第に増えて行き、目的地への道しるべとなっている。あたりの景色が切り立った岩山と木々の緑で覆われたころ、「大谷資料館」に到着する。

  • 岩肌が露出した山に周囲を囲まれたら資料館はもうすぐ

    岩肌が露出した山に周囲を囲まれたら資料館はもうすぐ

大谷石は宇都宮市大谷町一帯から採掘される流紋岩質角礫凝灰岩の総称で、柔らかく加工しやすい特性から、旧帝国ホテルのライト館をはじめ、古くより建物の外壁や土蔵などに使われてきた。最盛期の昭和30年代には年間80万トンも採石されていたという。
資料館では大谷石採掘に関する歴史と変遷をわかりやすく紹介し、採掘道具や運搬具などの資料を展示。地下では、大正8年(1919)から昭和61年(1986)まで稼働していた採掘場跡を一般公開している。
地下30mに広がる約2万uの空間は、巨大伽藍か、あるいは地下神殿を想わせる荘厳さだ。訪れた日は初夏を思わせる陽気だったにも関わらず、半袖では少々厳しいと感じる寒さだった。高さ平均10mの天井を見上げると、なぜか足がすくむ感覚を覚える神秘的な空間は、現在では音響の良さを生かして、コンサートや演劇会場としても利用されている。過去にはアイルランドの歌手エンヤもここで歌を披露したほか、映画やプロモーションビデオの撮影にも使われ、そうした採掘場跡の活用実績は写真パネルで紹介されていた。
実に興味が尽きない施設だが、当日は上に羽織る物を用意しなかったため、30分で寒さの限界を感じて地下空間をあとにした。入口ではブランケットの貸出しを行っているので、ぜひ利用しよう。
/入場料 800円

  • 約70年の歳月をかけて掘り進められた巨大な地下空間

    約70年の歳月をかけて掘り進められた巨大な地下空間

  • 突如現れる工夫のマネキン。少しドキッとする

    突如現れる工夫のマネキン。少しドキッとする

  • 手掘りや機械掘りなど時代ごとの痕跡を残す岩肌

    手掘りや機械掘りなど時代ごとの痕跡を残す岩肌

  • 人と比較すると空間の巨大さが把握できる

    人と比較すると空間の巨大さが把握できる

  • 歌手のエンヤが歌を披露した際使われた十字架のオブジェ

    歌手のエンヤが歌を披露した際使われた十字架のオブジェ

  • 地上にあるお洒落なショップ&カフェ「ROCKSIDE MARKET cafe」

    地上にあるお洒落なショップ&カフェ「ROCKSIDE MARKET cafe」

  • 有名企業の新作発表レセプションにも利用されている

    有名企業の新作発表レセプションにも利用されている

  • カフェではドリンクのほかガレットなども販売

    カフェではドリンクのほかガレットなども販売

カトリック松が峰教会

現存最大級のロマネスク・リヴァイヴァル建築

現存最大級のロマネスク・リヴァイヴァル建築

今回のドライブの足となってくれた車は、「ニッポンレンタカー宇都宮西口駅前営業所」で乗捨てることになっていた。JR宇都宮駅に向かう途中、繁華な東武宇都宮駅周辺に来たところで、近くに大谷石を使った建造物としては最大級の建築があることを思い出し、せっかくなので立ち寄ってみることに。
駅周辺の繁華街に忽然と現れる「カトリック松が峰教会」は、スイスのマックス・ヒンデル氏による設計で昭和7年(1932)に創設された。ロマネスク様式が特徴で、大谷石の白い外壁が重厚な雰囲気を漂わせている。日本では数少ない双塔の教会内は見学もできる。色ガラスの窓から差し込む、少し黄色みがかった光に満ちた礼拝堂には、バロック様式のパイプオルガンが設置され、毎週日曜日のミサでは美しい音色を奏でるそうだ。

  • 平成10年(1998)国の登録有形文化財に選定される

    平成10年(1998)国の登録有形文化財に選定される

  • ロマネスク建築の特徴的な半円アーチが多用された聖堂内

    ロマネスク建築の特徴的な半円アーチが多用された聖堂内

  • 聖堂内の柱や祭壇にも大谷石が使われている

    聖堂内の柱や祭壇にも大谷石が使われている

  • 祭壇の奥に鎮座するバロック様式のパイプオルガン

    祭壇の奥に鎮座するバロック様式のパイプオルガン

宇都宮駅前には餃子専門店がいくつもならんでいる

宇都宮駅前には餃子専門店がいくつもならんでいる

教会を出たあとは、宇都宮西口駅前営業所へ。東北新幹線の高架が目の前の営業所は、駅まで徒歩3分という近さだ。車を返却して歩いて駅に向かう途中、宇都宮餃子の店がいくつも目につく。ドライブの疲れを癒すべく、そのうちの一軒でビールと餃子の祝杯を挙げることにした。

ニッポンレンタカーの車種・料金

詳しくは車種・料金一覧表をご覧ください。

群馬県、栃木県内のニッポンレンタカー営業所

ニッポンレンタカー ホームページの営業所検索で、群馬県栃木県の営業所リストをご覧いただけます。

ググっとぐんま
富岡製糸場をはじめ群馬県のみどころや温泉、ご当地グルメ情報などが見られるほか、観光情報検索もできる。
栃木市観光協会
栃木市のみどころやイベント、名物紹介のほか、いろいろな疑問に答えてくれる「栃木コンシェルジュ」などが見られる。

記事・写真:宮崎博、谷山宏典 取材:2017年5月

  • ※ドライブコースの情報はそれぞれの記事の取材時点のものです。