最北端ノールカップとオーロラとの出遭い(2)

  • 夜空を乱舞するオーロラ

ヨーロッパ最北の岬、北緯71度10分21秒に位置するノールカップは、海底トンネルをくぐり抜けたマーゲロイ(Magerøya)島の先端にある。フィンランドの北極圏に位置するロヴァニエミ(Rovaniemi)から約900km、目的のノールカップに到達したあとは、岬より約12km下った小さな漁村スカルスヴァーグ(Skarsvåg)で一泊。8〜11世紀に活躍したヴァイキングの歴史を思わせるようなフィヨルドの奧にあるいくつかの港町にも寄りながらロヴァニエミへと向かう。
帰路のルートはノルウェーのアルタを経由して、一路南へと向かった。ロヴァニエミまでは幹線道路だけ辿ると約950kmの距離だが、ステップや森林の中に点在する湖の美しい風景を求め数百kmも走りながら、人影のない大自然の原野にその日の宿があるかを心配しつつのドライブの日が続いた。
そんなある日、待望のオーロラに遭遇。森の中に建つコテージの真上に、壮大な光のスペクタクル、その神秘な世界に魅了された。

ドライブルート

ロヴァニエミ(Rovaniemi)−イヴァロ(Ivalo)−イナリ(Inari)−ノルウェイ・カラショーク(Karasjok)−ラクセルブ(Lakselv)−ホニングスヴォーグ(Honningsvag)−スカルスヴァーグ(Skarsvåg)−ノールカップ(Nordkapp)−アルタ(Alta)−フィンランド・エノンテキオ(Enontekiö)−ペッロ(Pello)−ロヴァニエミ

全行程 約2,100km、今回行程 約1,200km

<赤いドライブルート付近のマーカーをクリックするとその項目にジャンプします>

  • サムネイル1
  • サムネイル2
  • サムネイル3
  • サムネイル4
  • サムネイル5
  • サムネイル6

ホニングスヴォーグ(Honningsvåg)

マーゲロイ(Magerøya)島にはノールカップとならんでクニブシゼロデン(Knivskjelodden)という海に突き出た2つの岬がある。正確にはクニブシゼロデンの方が少し北に位置し事実上の最北端だが、地形が悪く車道がない。徒歩約2時間の距離にあるためこの岬は避け、誰でも行くことができるノールカップが便宜上、最北端となっているそうだ。
ノールカップから約12km下った小さな漁村スカルスヴァーグは、川のような細い入り江にあり、人口100人足らずの小さな村だが、2軒のホテルがある。夏の観光シーズンは予約がとれないほど混むそうだが、9月の末には客はなく休業となる。泊まった宿もほぼ休業状態で、ほかに客はなかった。

  • スカルスヴァーグの夕暮れ

    スカルスヴァーグの夕暮れ

  • スカルスヴァーグの港と村

    スカルスヴァーグの港と村

  • サーメの民族衣装を着た女性とトナカイ

    サーメの民族衣装を着た女性とトナカイ

  • ツンドラに放牧されているトナカイ

    ツンドラに放牧されているトナカイ

  • ホニングスヴォーグの飛行場

    ホニングスヴォーグの飛行場

  • ホニングスヴォーグ唯一の土産物店兼観光案内所。右側は博物館

    ホニングスヴォーグ唯一の土産物店兼観光案内所。右側は博物館

  • ホニングスヴォーグの港

    ホニングスヴォーグの港

最北端の飛行場がある町ホニングスヴォーグはマーゲロイ島にあり、ノールカップから約35km南に位置する。北ノルウェーの重要な漁港で、年間数千もの漁船が出入りする。「世界最北の都市」ともいわれている。スバールバル諸島のロングイェールビーンと最北の都市の名称を争っているようだが、人口約2,500人では都市とは認められていない。もっともノルウェーには都市の定義がないそうで、彼らにすれば人口など関係ないのかも知れない。そんな事情はともかく、9月の末、冷たい雨の降る港には人影もなく、窓を閉ざした小さな家々をみていると、もう十分に“世界最北の町”である。
だが、北緯71度の位置でありながら、周辺の海には暖流が流れ凍らない。そのため首都オスロより気温が高く、人々が庭などに植えた樹木が3mにも育つのも珍しくないとか。
何艘かの船が停泊する港の脇には観光旅行案内所とサーメの人たちが作る民芸品を売る店があり、隣のビルの4階は民族博物館になっている。かつての地元の人たちの漁の様子(主に鱈漁)やその道具、生活模様や日用品などが展示されている。現在は、ノールカップを目指す旅行者が立ち寄るだけの町だが、フィヨルドクルーズ船が寄港し、小さな空港にはノルウェーの主要都市や町から一日数便が発着する。まさに最北の都市である。

  • 町の大通り

    町の大通り

  • 海辺に民家がポツン、ポツンとある

    海辺に民家がポツン、ポツンとある

  • 島と本土は海底トンネルでつながっている

    島と本土は海底トンネルでつながっている

  • アルタへの分岐。直進するとフィンランドへ入る

    アルタへの分岐。直進するとフィンランドへ入る

  • 岩壁に沿って続く道。トンネルで岬を避ける

    岩壁に沿って続く道。トンネルで岬を避ける

アルタ(Alta)

アルタフィヨルドの最奧の町。ほぼ北緯70度の線上にあり、オーロラ観測率が高いことでも知られる。夏はノールカップへ向かう旅行者の中継地点でもあり、冬はオーロラを目的に世界中から人々が訪れる。とくにイギリスからは冬だけで10隻ものクルーズ船がやってくると聞く。暖流の影響で、スウェーデンやフィンランドの内陸の都市と比べ気温は高く、マイナス10度を上回ることも珍しくない。ここは世界最古のオーロラ観測所が建設された地でもある。
オーロラが出現する気象条件は難しい。晴れて湿度が低く空気が澄んでいることが第一の条件という。この日、日中は曇りだったが、日没とともに雲が動き出し夜には星が見えた。人家の灯も外灯も届きにくい海辺に車を走らせ、カメラを設置しながらオーロラ出現を深夜まで待った。しかし、風が強く待望のオーロラは現れなかった。

  • アルタの町

    アルタの町

アルタはオーロラの他に、観光客を惹きつけるもう一つの見どころがあった。それは「アルタ博物館」だ。紀元前4200年から200年の間に描かれたとされる絵が氷河に削られた岩の上に描かれている。トナカイや熊などのラップランドに生息する動物のほか船や人などで、遊歩道に沿って約3kmもある。世界遺産に登録されている。

  • アルタのデパート内には回転寿司があった

    アルタのデパート内には回転寿司があった

  • アルタ博物館のシンボル・イラスト

    アルタ博物館の
    シンボル・イラスト

  • 岩に描かれた岩絵(博物館HPから)

    岩に描かれた岩絵(博物館HPから)

エノンテキオ(Enontekiö)

アルタからルート93号線を南へ約200km。急峻な岩山の谷抜け、ノルウェーのステップ地帯から樹木の背丈が少しずつ高くなりながら、やがて森林地帯に入る。国境といってもなにもないところからフィンランドに入ると、東西に走るルート956とのジャンクションにある小さな町がエノンテキオだ。

  • アルタを過ぎると急峻な岩山を縫って高原へ出る

    アルタを過ぎると急峻な岩山を縫って高原へ出る

  • 北欧の白い太陽を受け、南へ

    北欧の白い太陽を受け、南へ

  •  国境。ここからフィンランドだがゲートもない

    国境。ここからフィンランドだがゲートもない

  • エノンテキオ。教会だけが目立つ

    エノンテキオ。教会だけが目立つ

  • カウトケイノ川は手つかずの自然のままにフィンランドからノルウェーへ流れる

    カウトケイノ川は手つかずの自然のままにフィンランドからノルウェーへ流れる

ラップランド地方では、地図には村や町の印はあっても、中心部にわずかにスーパーマーケット、ガソリンスタンドの他、教会と民家が数軒あるだけ。場違いのように建つ大型スーパーは、広い土地の中に点在する家で暮らす人々のためにある。地図上の町に着いても、町らしい雰囲気はない。
ここエノンテキオも同じ。飛行場もあるというのに、民家は森の中に建つ。エノンテキオの町と意識できるのは教会とスーパーマーケット、ガソリンスタンドくらいのものだった。そんな森の中に建つ数軒のコテージが宿だ。広いキッチン付きフロアに屋根裏を含めてベッドは5つ。フィンランドのコテージはサウナ付きだ。窓辺には野鳥やリスが顔を覗かせるだけで、シーズンオフのコテージに客はほとんどいなかった。

  • 谷間の小さな村の教会

    谷間の小さな村の教会

  • 静かな湖面。人影はなし

    静かな湖面。人影はなし

  • コテージを囲む森と下草 右上:コテージの餌場にリスや小鳥がやってくる

    コテージを囲む森と下草 右上:コテージの餌場にリスや小鳥がやってくる

泊まっているコテージの背後にも

泊まっているコテージの背後にも

待望のオーロラ

サウナで温まった体を冷やそうと外へ出た。北斗七星やシリウス、北極星などが頭上に輝いていた。日本で見る星よりはるかに大きく見えた。
午後9時半、見上げる星々に突然、靄がかかったように見えた。その靄が揺らめき、薄く淡い青色に変わると間もなく、帯状の青色、そして黄緑色の光の帯が幾筋も大空を巡る。
手を伸ばせば届きそうに間近に見える光の帯は、カーテンとなって星々を覆う。その青や緑、紫色のカーテンを透かして北斗七星が瞬く。カメラではとてもとらえられない大自然の色彩と大空いっぱいに広がる巨大な光に、ただ感動!であった。

  • 念願のオーロラが出た。これは出始め

    念願のオーロラが出た。これは出始め

  • 紫も加わって光りの束は大きくなる

    紫も加わって光りの束は大きくなる

  • 天空をくねって伸びる

    天空をくねって伸びる

  • 光の束は三つに分かれて舞う

    光の束は三つに分かれて舞う

  • 翌朝、湿地の草には霧氷が

    翌朝、湿地の草には霧氷が

  • 湖面に霧が流れる。冷えた日、幻想的な朝だった

    湖面に霧が流れる。冷えた日、幻想的な朝だった

ペッロ(Pello)

スウェーデン(Sweden)とトルネ川を挟んだ、長い国境線を辿るようにルートN(ナショナル・ロード) 21を約250m南下。生憎の雨模様に昨夜のオーロラに出遭えた幸運を感謝しつつ、久しぶりの対向車に出合う国道に出て、少し安堵の気持ちが湧いた。ここはスウェーデンとの国境の町、トルネ川のほとりに位置する。町の入り口には2つのガソリンスタンドと、それに併設されたレストランとコンビニ風の売店があり、久しぶりに数多い人々の姿があった。会話する声にさえ懐かしさを感じ、驚かされた。
川の畔にはクロスカントリー・スキーの王者といわれたイーロ・マンチランタ(Eero・Mantyranta)の像が建つ。彼は1937年にここペッロで生まれ、1960年から4度の冬季オリンピックで活躍、3つの金の他4つのメダルに輝いた選手だ。世界選手権でも2つの金メダルを獲得している。これも旅先の出会いの一つである。
国境の町とあってホテルの目の前にはコンクリート造り2階建ての警察署があったが、夜になると明かりも人の姿も消えた。ホテルのオーナーも「用事があれば電話するように」と言い残し姿を消した。
ほとんどのホテルに固定電話はなく、携帯電話を持たない旅行者は孤立するのみだ。

  • 人家もないところに土産物屋があり、ヒグマが狐の襟巻きを抱えていた

    人家もないところに土産物屋があり、
    ヒグマが狐の襟巻きを抱えていた

  • 往年のノルディックスキー王者、マンチランタの像(ペッロで)

    往年のノルディックスキー王者、マンチランタの像(ペッロで)

ヴィートネン(Vietonen)湖のほとり

ぺッロより西へルート83を辿れば、今回の旅の出発点であるロヴァニエミへと戻る。
だが時間に余裕があるため、一般路から外れた数ある湖の周辺を探索することにした。ルート83より南に位置するヴィートネン湖へ続く細い道を選んだ。一面の草原に覆われた湖畔東側へ向かい、狭い切れ目でつながっている二つの湖を分ける通路のような陸地をたどった。その後、湖から離れないように小径を選びながら約30km、突然3軒の民家に出合った。人影はなかったがサーメの人々と思われる生活用具が軒下に置かれていた。かつてはこのあたりで、トナカイを追い、狩猟や漁師などをしていたのかもしれない。気がつけばいつの間にか道は草原から森の中へと入っていた。
どこから来たのか自転車に乗った人2人が現れ、すぐに車の通れない湖畔へと下っていった。さらに分岐点が続いたが、湖水に沿って約5km行くと、森の中に大きな建物に出会った。コテージとキャンプ場のレストラン兼事務所の建物だった。周囲には数軒のコテージと、湖に突き出すように展望台があり、湖岸にはカヌーのような舟が並んでいた。その他、トナカイ飼育所やキャンプ場などもある。ただし、人影はもちろん動物もいなかった。夏は大勢の人で賑わうヴィレッジ入り口には「ロマ・ヴィートネン・ホリデー・ヴィレッジ」という看板が有り、側には北緯66度33分、北極圏であることを示す標識が立っていた。

  • 森が多くなりトナカイものんびり横断

    森が多くなりトナカイものんびり横断

  • ヴィートネン・キャンプ場への道標

    ヴィートネン・キャンプ場への道標

  • キャンプ場からヴィートネン湖

    キャンプ場からヴィートネン湖

  • 北緯66度33分。北極圏を示す看板(キャンプ場で)

    北緯66度33分。北極圏を示す看板(キャンプ場で)

国土面積33.8万km2と日本よりやや小さいが、人口は約55万人と約20分の1、国土の約70%が森林と何千もの湖からなり、多くは手つかずの大自然が広がる。そこには熊やトナカイ、ムース、オオカミなどの大型動物をはじめ野鳥などたくさんの野生動物が生息している。観光客の多くはこうした大自然を求めてやってくる。幹線道路は整備され、地図上にある町や村には贅沢を求めなければ宿泊施設もある。自然を満喫したい人にはお勧めの国である。

フィンランド政府観光局
「旅の目的地」では、ラップランド、湖水地方、沿岸地域と群島、ヘルシンキに分けて観光の魅力が紹介されている。

取材:2015年9月

  • ※ドライブコースの情報はそれぞれの記事の取材時点のものです。